その家からは森が見える   ついきひろこ

ブラインドを下ろした部屋で
親しげな会話の ふと とぎれるとき
そこにいる人々の耳は
それぞれ さりげない風で
外に向かって とぎすまされる

ブラインドの向こう 芝生の上を
ひたひたと ひとつの雰囲気が這い回り
大枝のゆれる気配が 家をつつむ
積み重なった落ち葉の匂いが 窓にからむ

耳は それらを聞き分けている
  (森が 機会をさぐりに来ている・・・)

  昼間 ベリーを摘みに行った森
  小さな実生のもみの木が並ぶ明るい空地
  落ち葉の間に 黄色いキノコも見つけた
  木漏れ陽の中 小道をたどれば
  すいれんの咲く 沼
  (すべて 昼の表情・・・)

次の朝
人々は 芝生の上の何枚かの落ち葉を払い
芝生を切りそろえ
何かの芽生えを摘み取り
森の足跡を 消す
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